規制および脱炭素化への目標を背景に、船主はネットゼロに向けて前進するための異なるいくつかの選択肢を検討していますが、そのうちの1つがメタノールの船舶用燃料としての使用です。

将来、メタノールは船舶推進や発電に有効な選択肢となる可能性が高く、他の代替手段よりも互換性の高い「ドロップインソリューション」に近いものです。

メタノールとは?

メタノール (CH3OH3) は、軽量で、無色、引火性、揮発性がある液体アルコールであり、メチルアルコールとしても知られています。燃料としての使用に加えて、プラスチック、塗料、建材などのさまざまな商品を製造するための基礎化学品としても使用されます。

メタノールを説明するために使用されるさまざまな色は、メタノールが天然に存在する物質ではないため、その製造方法とその原材料を表現するものです。

  • ブラウン メタノール:石炭原料を合成して生成されます。

  • グレー メタノール:原材料とプロセス燃料の両方として天然ガスを合成して生成されます。

  • ブルー メタノール:炭素回収プロセスを通じて抽出された水素と二酸化炭素 (CO2) を合成して生成されます。

  • グリーン メタノール:バイオマスから、または再生可能エネルギー源を使用した電気分解によって生成されます。

石炭または天然ガスを原料(ブラウンおよびグレーメタノール)として使用する合成ガスからの生産によって、現在の需要の多くが満たされています。しかし、ライフサイクル分析に従って、将来的にはブルーおよびグリーンメタノール生産への移行が予想されます。

海洋燃料としてのメタノール

業界が脱炭素化を目指す中、メタノールは船舶の代替燃料分野における有力候補として注目を浴びています。その理由としては次のようなものが考えられます:

  • メタノールは、液体燃料の中で最も低い炭素含有量そして最も高い水素含有量を有します。

  • 他に提案されている代替燃料とは異なり、周囲温度および常圧では液体です。つまり、

    • 比較的小規模な改造のみを必要とするだけで船舶上での使用を可能にするため、船主の設備投資コストが削減されます。

    • 燃料供給、保管、移動が簡単になります

  • 産業需要の拡大により、この燃料の生産量が増加し利用可能性が高まっています。

  • 従来の船舶用燃料と比較して、硫黄酸化物(Sox)、窒素酸化物(NOx)および粒子状物質の排出を大幅に削減します。以下はロイドレジスターの試験データです:

    • エンジン負荷により異なりますが、HFOと比較してNOx排出量が約60%削減されます。

    • SOx排出量が最大99%削減されます。

    • 粒子状物質(PM)排出量が最大95%削減されます。

  • グレーまたはブラウンメタノールを燃焼するように設定されたデュアル・フューエルエンジンは、更なる改造を加えることなくグリーンおよびブルーメタノールを燃焼できます。

  • メタノールは、アンモニアや水素よりもエネルギー体積密度が高くなります。

海洋燃料としてのメタノールのデメリット

船舶燃料としてメタノールに切り替えるには課題があります。

  • 腐食性が強いので、特別な取り扱いや保管を必要とします。

  • 引火点が低くなります(12度 )。

  • 毒性が高い特徴がります。

  • 船舶の残渣燃料油および留出油と比較して、追加の安全対策を必要とします。

  • アンモニアや水素と比較すると高いエネルギー密度を持っていますが、超低硫黄燃料油(VLSFO)や船舶用ガスオイル(MGO)などの留出油または残渣燃料油と比較するとエネルギー密度が約2.4倍低いため、船内でより大きな貯蔵タンクが必要となり、貨物積載量を減らしてしまう可能性があります。

  • 需要を満たすには、グリーンメタノールやバイオメタノールなどの低炭素生産方法を大幅に増やす必要があり、他の陸上業界との競争になります。

  • 従来の船舶用燃料と比較すると、船舶用燃料としてのメタノールの価格は高くなります。

技術面と運用面 – ロイズレジスターのエキスパートに聞く

この度、ロイズレジスターのCharles Haskell氏に技術面と運用面について話を伺いました。

IMO(国際海事機関)およびEU法はメタノールの生産と使用にどのような影響を及ぼしますか?

IMOの第80回海洋環境保護委員会(MEPC 80)は先ごろ、2050年またはその前後、つまり2050年近くまでにCO2 実質排出量ゼロを達成することを目的とする改訂された強化戦略を採択しました。

示唆的な中間のチェックポイントとして、2030年までにGHG排出量を30%を目指しながら少なくとも20%削減、2040年までにGHG排出量を80%を目指しながら少なくとも70%削減(いずれも2008年比)することを盛り込んでいます。

2030年までに低炭素またはゼロ炭素燃料の最終的な10%普及を目指しながら最低5%まで普及させるという目標もあります。
FuelEU Maritimeは2025年に発効されます。

この規制は、船舶、または重要なポイントとしては艦隊や船舶群で使用する燃料の年間平均温室効果ガス(GHG)排出強度を削減する目標を設定しています。

船舶のGHG排出量は、2025年から2%(2020 年ベースラインと比較)と小規模に始まり、2030年には6%、2035年には14.5%に達し、2050年までに80%の削減を目指します。

中国、米国、英国を含む他の地域でも、追加の排出量取引制度が検討されています。
このような追加の地域制度が展開されれば、EUの気候変動対策パッケージ「Fit for 55」と組み合わせることで、主要な世界貿易圏の多くに適用されることになります。

しかし、各地域の制度が同じになる可能性は低く、海事分野における脱炭素化への世界的なアプローチは断片化してしまうことにつながります。

上記は、ブルーとグリーンメタノールの使用に対する投資事例を裏付けるものであるため、EUの地域的およびMEPC 80に続いて世界的に生産施設に必要とされる大規模な投資のリスクを軽減し始めます。

バイオ燃料、アンモニア、水素などの他の代替燃料と比較して、船舶燃料としてのメタノールの適用をどのように見ていますか?

メタノールは機能性が確立された燃料であると同時に新採用される候補でもあるという点で独特です。

Methanol technology is tested, and most engine makers will have dual fuel two-stroke or four-stroke diesel or otto-cycle engines available now or soon.

船舶燃料として長年使用されている実績があります。

ただし、燃料生産を実現するには、燃料生産方法を化石燃料から再生可能エネルギーに移行する必要があります。

メタノール技術は試験されており、ほとんどのエンジンメーカーは現在または近いうちに二元燃料の2ストロークまたは 4ストロークのディーゼルサイクルやオットーサイクル エンジンを採用すると思われます。

メタノールの安全性はどの程度ですか?

メタノールは、提案された将来性のある燃料の中でより安全な燃料の1つだと考えられていますが、有毒である点に変わりはなく取り扱いには細心の注意が必要です。

経口吸入や経口摂取、皮膚や目への接触により体内に吸収される可能性があります。

メタノールの汚染または曝露による健康への悪影響は、必ずしもすぐに明らかになるわけではなく、致命的になることもあります。

また、燃料は強酸化剤と激しく反応し、漏れが発生した場合には火災や爆発の危険性が高まります。

メタノールの蒸発蒸気は空気より重いため、地面に沿って広がり、換気の悪い場所、低所、エンジンルームのビルジエリアなどの狭い場所に集まり滞留します。

メタノールは化学原料や海上貨物として定期的に使用されているため、安全指針に関する出版物が多数あります。

ロイドレジスターとメタノール研究所は、2020年にメタノールバンカリングプロセスに関する堅牢な指針を展開し、「Introduction to Methanol Bunkering Technical Reference(メタノール・バンカリング・テクニカル・リファレンスの紹介)」を出版しました。

メタノール研究所は、「The Methanol Institute Safe Handling Manual(メタノール研究所の安全な取り扱いマニュアル)(第4版)」も定期的に更新しています。

メタノールバンカー供給者、港湾、使用者となる可能性がある場合は、ヨーロッパにおけるCENワークショップ協定の取り組みについても把握しておくべきです。

CEN(欧州標準化委員会)は、欧州レベルでの自主標準の開発と定義を担当するものとして欧州連合によって認められている3つの期間のうちの1つです。

メタノールバンカリングに関するワークショップ契約は、ロイズレジスターやメタノール研究所などの業界関係者と提携して締結されました。

汚染リスク – ITOPF(国際タンカー船主汚染防止連盟)のエキスパートに聞く

ITOPFのAndrew Le Masurier氏に、メタノールの化学的性質と流出による環境への影響について尋ねました。

水中に放出されるメタノールに関連する環境リスクにはどのようなものがありますか?

メタノールは海洋環境に流出すると、表面に分散し、水に溶解すると同時に蒸発によって大気中に失われます。
メタノールは水に溶解し、付近に有毒な影響を与える可能性があります。

しかし、濃度は水域内の緩衝と希釈により急速に減少し、長期的な影響にはつながらないと予測されます。

メタノールは水に完全に混和します。つまり、メタノールの溶解度には制限がなく、飽和状態に達することはありません。
したがって、流出したメタノールの量に関係なく、常に流出した水域に溶解することが可能です。

この特性により、自然水域への大量放出後は石油系燃料よりも大幅に速い速度で無毒性レベル(<1%)まで消散します。

メタノールの分解速度は、風波の流れの作用と組み合わされた潮流によって引き起こされる、水生環境における混和の量で決まります。

石油製品の地表水における汚染物質の混合速度については重要な研究が行われていますが、メタノールについてはそれほど広範囲に渡る研究とデータはありません。

軽油などの軽質炭化水素化合物を大量に含む石油燃料の流出の場合、水面での滞留期間が短いという難点があり、付近にいる生物の体内に吸収されやすく、有毒性の影響や致死率が高くなる傾向につながります。

しかし、メタノールは一般に石油燃料よりも慢性毒性影響が低く、分解速度はより速いため、海洋生物に長期的に重大な影響を与えるほど濃度が高い状態を維持する可能性はほとんどありません

メタノール流出時の除去作業は他の燃料の場合と比較してどう違いますか?

流出対応業界にとっては、石油流出の場合に典型的である広範囲にわたる海岸線の長期的清掃作業から、短期的かつ局所的な対処へと大幅に変化がみられる可能性が高く、主なアプローチは単に受容体に対するリスクを監視し評価することになると考えられます。

上述のとおり、メタノールは大気や周辺水域への消失により海面での滞留時間が短いため、該当地域に対応人員が動員される前に流出は自然減衰している可能性が最も高くなります。

しかしながら、メタノール蒸気の有害性と引火性により、特にメタノールが継続的に放出している間は、対応人員や付近の受容体に対して重大なリスクは依然として存在します。

監視と評価の役割は、「対応ツールボックス」における非常に価値のあるアプローチとなります。

もう1つの考慮事項は大気プルームモデリングです。これによりインシデントが人口密集地域や環境保護指定区域に近い場合、後日、近隣の人体や環境受容体に対するリスクについて国家当局に情報を提供することができます。

潜在的な影響を受ける地域を把握するために、ITOPF(国際タンカー船主汚染防止連盟)は2012年にマレーシアで発生したメタノール爆発による石油流出現場を視察しました。その際、爆発現場から約800mの距離で建物損傷という物的損害が報告されました。
もう1つの考慮事項は、放出点に近い空気中の蒸気濃度または水柱のメタノール濃度を測定するための、遠隔操作によるセンサーの使用が挙げられます。

この方法は、結果をモデリングし、影響を受ける可能性のある領域に関する定量的データの収集を可能にする「グラウンドトゥルース」の効果的な方法となり得ます。

これらの検出技術は、メタノールの出現による流出直後または流出中のメタノールの結末と反応の評価に必要となります。

水と完全に混和する透明な液体であるため、周辺水域に溶解する前に遠隔画像や目視で検出することは非常に困難です。

バンカー燃料流出と比較するとメタノール流出に関連する費用はどうでしょうか?

費用面でも従来の石油流出の場合とは大きく異なる可能性があります。

海上でも海岸線でも流出対応が発生する可能性は極めて低く、通常このような活動に伴う多額の費用は必要ありません。
しかしながら、消化対策に関連する費用は多額になる可能性は考えられます。

さらに、通常船舶からの燃料流出に伴う多額の費用は廃棄物の収集、運搬、処分から発生します。

しかし、メタノールは大気中および周辺水域の両方で分解されるため、廃棄物は発生しない可能性があります。

対応費用には、インシデント直後のモデリングに対する専門知識、監視機器、より広範な全体的な技術的アドバイスの提供に関連するものが含まれると予想されます。

流出が継続的でゆっくりとした場合、流出を止めるために船体の構造にある漏れ口や亀裂を修繕するなど、いくつかの予防措置も求められる可能性があります。

メタノール漏れによる爆発、または付近の受容体の有毒濃度メタノールへの暴露のどちらかにより、死亡および人身傷害のクレームが発生する可能性があります。

可能性として高いもう1つのクレームとしては、漁船または他の種類の船舶に対する経済的損失、被害を受けた該当地域における港湾活動の低下による広範な経済的影響が考えられます。

このようなインシデントに関する国際的な経験が比較的少ないことを考慮すると、流出後の監視と環境調査は必要となることが予想されます。
さらに、元の状態への回復に向け合理的な措置に関するクレームを受ける可能性もあります。

しかし、環境被害は短期間で収まる性質を持っていると予想されるため、どの程度の調査と修繕が必要になるかは明らかではありません。
また、このような種類のクレームが、油汚染損害の民事責任条約(CLC)、バンカー条約2001年、2010年 HNS条約(現時点で未発効)など、IMOの賠償責任や補償に関する条約における「汚染損害」および「損害」の現在の定義にどの程度含まれるのかは現時点では明確ではないことにもご留意ください。

このような新しい種類の燃料に対する既存のIMOの賠償責任や補償に関する条約には法的なギャップが存在する可能性があり、これらの船舶が国際フリート内でより一般的になる前にこの事項を明確にする必要があります。

海運業界はこのような新しい種類の燃料にどのように備えるべきでしょうか?

流出対応の視点から見れば、このような新しい種類の燃料の重大な流出の経験がほとんどないため、これらのインシデントの実際の影響と結果の理解には大きな隔たりがあります。これらの燃料に関連するインシデントの経験がある組織は、学んだ教訓を共有し、より広範な業界に情報を提供することで、組織や政府がこのようなインシデントに対して最善の準備を整えることができ、ベストプラクティスの遵守へとつながります。海事業界、流出対応業界、サルベージ業界のすべてがこの事項に関係しますから、情報の公開と共有が促進されることで、将来このようなインシデントに適切に対応できるでしょう。

詳細を見る

当クラブの脱炭素化専門分野をご参照下さい >

当クラブのインサイト記事「よりクリーンな道を:船舶代替燃料とデュアル燃料の未来におけるメタノールの契約上の問題」はこちらよりご覧いただけます >