EUの気候変動政策パッケージ「Fit for 55」の一部である FuelEU Maritimeは、船籍に関係なく、貨物または乗客の輸送に使用される総トン数5,000トンを超える商船に2025年1月1日より適用されます。 船主、傭船者、船舶管理者、燃料供給者は、実際的な意味と契約上の意味の両方の観点からFuelEU Maritimeに備えることが必須です。 

FuelEU Maritimeとは?

EUの気候変動政策パッケージ「Fit for 55」は、2030年までにEUの温室効果ガス排出量を少なくとも55%削減することを目指しています。 このパッケージの一環として、FuelEU MaritimeはEU/EEA海域を航行する船舶で使用されるエネルギーの温室効果ガス原単位に焦点を当てており、生産井から航跡(Well-to-Wake )ベースで測定されます。 これには、船舶自体からの排出だけでなく、燃料の採取、栽培、生産、輸送に関連する排出量も含まれます。 船舶にはメタン、亜酸化窒素、二酸化炭素の船舶からの排出量を監視し報告することがすでに義務付けられています。 FuelEU Maritimeでは、船上の使用燃料よるすべてのエネルギーのGHG強度の年間平均値は、エネルギー当たりのGHG排出量[gCO2eq/MJ]として算出され、EU/EEA海域を航行する船舶の場合、要求レベルを下回る必要があります。 算出は 2020年の基準値と比較して設定されます。 2025年の削減目標は2%、2030年には6%、2035年には14.5%の削減目標に引き上げられ、2050年には80%に達します。 

FuelEU Maritimeの適用対象

FuelEU Maritimeは以下に適用されます:

  • EU/EEA港内の停泊中に船舶が使用する燃料消費量が対象。

  • EU/EEA寄港地から別のEU/EEAの寄港地までの航海中に使用される燃料消費量の100%が対象。

  • 加盟国の管轄下のの海外領土(Outermost regions)にある寄港地への往復の航海中に使用される燃料消費量の50%が対象。

  • EU/EEA寄港地から加盟国の管轄外の寄港地までの航海中(その逆も同様)に使用される燃料消費量の50%が対象。

FuelEU Maritimeにおける「寄港(port of call)」とは、貨物の荷役、旅客の乗降が行われる港湾を指します。 「寄港」の定義から除外されるのは、燃料供給、物資の入手、乗組員の救助、乾ドックへの入渠、船舶やその設備(またはその両方)の修理のみを目的とした停泊、船舶が援助を必要としている、または遭難しているために港湾への停泊、港湾境界外で行われる瀬取り、悪天候から避難することだけを目的とした停泊、隣接するのコンテナ積み替え港へのコンテナ船の停泊です。 隣接するのコンテナ積み替え港に関して、欧州委員会は2025年12月31日までに具体的な積替港のリストを確立する実施法を採択することになっています(その後 2年毎に更新される予定)。

停泊地および陸上電源(OPS: Onshore Power Supply)における排出量

客船(passenger ship)とコンテナ船は、2030年からEUの主要港および2035年からはOPSを備えたすべてのEU港湾で陸上電源(OPS)に接続することが要求されます。 短時間の岸壁への係留時間(2時間未満)の場合、または船舶が係留中にゼロエミッション技術を使用している場合には、陸上電源使用の義務は発生しません。

非生物由来の再生可能燃料(RFNBO)の使用

RFNBOまたはE-Fuelは、再生可能電力と空気から直接回収された炭素から生成される合成燃料です(e-ディーゼル、e-メタノール、e-LNG、e-水素、e-アンモニアなど)。 2025年1月1日から2033年12月31日までのRFNBOの使用には、船内で使用されるエネルギーのGHG強度の算出において2倍の報酬係数が与えられます。 

FuelEU Maritimeの責任者は誰ですか?

FuelEU Maritimeは、責任主体が常に海運会社(ISM company、つまり適合証書保持者)であるという点でEU ETSとは異なります。 したがって、DOC(適合証書)保有者である限り、登録所有者、裸傭船契約者、または第三者の船舶管理者が該当する可能性があります。 規則2023/1805第3条(13)では、責任のある「海運会社」を次のように定義しています:

「海運会社(company)」とは、船主または船主から船舶の運航に関する責任を引き継いだ管理人や裸傭船者などのその他の組織や人物であり、船舶の安全航行及び汚染防止のための国際管理コ-ドによって課されるすべての義務と責任を引き継ぐことに同意した者とします。

主要日程
  • 2024年8月31日 – 船舶固有のモニタリングプランは、この日までに評価のために検証機関に提出することが要求されています。 モニタリングプランテンプレートは、実施規則(EU)2024/2031附属書実施規則 - EU - 2024/2031 - EN - EUR-Lex (europa.eu)に含まれています。 

  • 2025年1月1日以降  – 船舶モニタリングプランに基づいて、海運会社に必要な燃料情報(およびそのwell-to-wake排出係数)を毎年(1月1日から12月31日まで)記録する必要があります。 個々の船舶のFuelEUレポートは、毎年 1月 31 までに検証者に提出ことが要求されています。

  • 2026年3月31日(以降、毎年3月31日)  – 検証者が FuelEU コンプライアンスデータベースに記録される必要のある情報を企業に報告する期限の日付。 

  • 2026年4月30日まで(以降、毎年4月30日まで) – 海運会社は事前コンプライアンス余剰を記録し、検証者はプーリング(相殺)の使用をFuelEUコンプライアンスデータベースに記録する必要があります。

  • 2026年6月30日まで(以降、毎年6月30日まで) – 検証者はFuelEU適合証書を発行します。 EEA港湾に入港する船舶には有効な適合証書を保持する必要があります。必要な罰金もこの日までに関連管理当局に支払うことが要求されます。 

  • 2030年1月1日 – 2030年の初めから、主要なTEN-T(欧州横断輸送ネットワーク)港湾に寄港するコンテナ船と旅客船は、停泊地でのゼロエミッション要件を満たすためにOPSへの接続が義務付けられています。 この要件には例外があり、停泊中にゼロエミッション技術が船内で使用される場合など、岸壁への係留時間が2 時間未満の場合には適用されません。

  • 2035年1月1日以降 – OPSに接続するためにEU/EEA域内すべての港湾に寄港する旅客船とコンテナ船

違反に対する罰金

海運会社がGHG強度に関する適合不足分がある場合、罰金を支払わなければなりません。 海運会社が2回(2年)以上連続して遵守しなかった場合、規制に定められた計算式を使用してペナルティ係数が乗算されます。  

寄港中のOPS使用に関する違反に対しては、金銭的な罰金も科せられます。 さらに、2年以上連続したレポート期間にわたってFuelEU Maritime適合証書を提示しなかった場合、船舶はEUからの入国を拒否される可能性があります。

契約上の影響

船主、傭船者、船舶管理者は、傭船契約、船舶管理契約、燃料油供給契約において、FuelEU Maritimeが契約上どのように扱われるかを慎重に検討する必要があります。 

(i) モニタリング、レポート、検証の要件

上記述べたように、ISM海運会社がコンプライアンスの責任を負う組織となります。 当事者は、特にモニタリング、レポート、検証に関して責任主体がすべての責任を遵守する旨を契約条件に含めることを希望する場合があります。 

(ii) 文書とデータ

船主(または船舶管理者)の観点からは、傭船契約書(または船舶管理契約書)にも、船舶への燃料供給の責任を負う当事者からの情報やデータを適時に要求するだけでなく、その情報やデータが正確であり、 FuelEU Maritime規制に準拠していることを要求する条項も含まれるべきです。 持続可能性の文書または認証の証明、船舶燃料納品書(BDN:bunker delivery note)にどのような情報を含めるかに関する規定を含める必要があります。 

燃料購入に責任を負う当事者は、バンカー・サプライ契約を慎重に検討し、必要な情報と文書をバンカー供給者から確実に入手する必要があります。 この文書は(正しい温室効果ガスエネルギー原単位を計算できるようにするため)燃料の由来を証明するために検証者に渡す必要があるために重要です。必要な文書がない場合、指定された排出係数は対応する化石燃料係数である可能性があります(FuelEU Maritime規制附属書IIにはデフォルトの排出係数が盛り込まれています)。

(iii) 罰則および入港拒否または勾留命令

当事者は用船契約に基づいてFuelEU Maritimeへの適合費用を割り当てることを希望する場合があります(言い換えれば、コンプライアンス違反がある場合に、FuelEU適合証書を取得するためにFuelEU Maritime罰金の支払い)。

定期傭船契約の場合、FuelEU罰金および入港拒否または勾留命令の費用の責任に関して、傭船契約内で明確な規定を作成する必要があります。 ただし、罰則は年間の制限に基づいており、実際には翌年6月まで期限が切れないため、傭船者が船舶を一年の一定期間だけ傭船している場合、または傭船当事者が複数のレポート期間にまたがる場合、状況は複雑になります。 かかる状況では、当事者はより定期的な期間に対する罰金配分の見積もりや算出を選ぶ場合があります。 

航海傭船に関しては、FuelEU Maritimeへの遵守費用は、追加燃料費や追加料金などを考慮した運賃の増額を通じて配分することができます。

(iv) プーリング(相殺)、バンキング(貯蓄)およびボローイング(前借)

また、船舶のコンプライアンス・バランスのプーリング(相殺)、バンキング(貯蓄)およびボローイング(前借)があるかどうか、また、剰余がある場合、それが傭船契約に基づく傭船者の義務とどのように相互作用するかについても検討する必要があります。     当事者は、傭船者がコンプライアンスのプーリング(相殺)、バンキング(貯蓄)およびボローイング(前借)の恩恵を最大限に享受できるかどうか、また傭船契約がレポート年度全体を含めていない場合にこれがどのように機能するかを検討する必要があります。 

たとえば、傭船者はコンプライアンス余剰が積み立てられているが、次のレポート期間は船舶の傭船者ではない場合、何らかの利益やインセンティブを受け取ることになるのでしょうか? 船舶のコンプライアンス・バランスは、同じレポート期間内に複数の相殺に含めることはできませんが、船舶は別のレポート期間に別の相殺に切り替えられる可能性があるため、これが契約上どのように扱われるかについて検討が必要になる場合があります。 当事者は、FuelEU罰金の支払い期限が到来することを見越して傭船者が傭船契約に基づいて支払いを行った場合に(全額または日割りで)払い戻しを可能にする条項を傭船契約内に含めることを選択する可能性がありますが、船主による相殺(プーリング)または前借(ボローイング)の結果、実際にはFuelEU罰金を支払う必要はなく(また金額が低い)、払い戻しを可能にする条項を傭船契約内に含めることを選択する可能性があります。

(v) 陸上電源

旅客船およびコンテナ船の場合、船主はOPSに対する船舶の準備が整っているかどうか、また、輸送船舶の改造を行うために船舶を休航する必要がある場合、これが長期傭船契約に基づく義務に影響を与えるかどうかを検討する必要があります。

当クラブの支援

当クラブのメンバーまたはブローカーの皆様が、FuelEU Maritimeに関してご質問がある場合は、通常のクラブFD&Dクレーム対応責任者に契約に関してお問い合わせいただくか、NorthStandard脱炭素化専門グループ NSdecarbonisation@north-standard.comまで電子メールをお送りください。